建築から学ぶこと

2019/11/27

No. 698

つなぐ言葉は世界を豊かにする

前回紹介したAIA(アメリカ建築家協会)-IR大会には、世界各地の建築家が顔を見せていた。支部の名を挙げれば、シンガポール・英国・カナダ・日本など。今回の会場・上海にも支部組織があって、大会を上手にまとめていた。興味深いのは、そこに香港や台湾の建築家が加わっていて、和やかに時間を過ごしていることである。これがUIA(国際建築家連合)やARCASIA(アジア建築家評議会)といった機関だと、台湾が外れたりする。AIAが関心を持つのは自らのブランド力であって、AIA-IRには政治的な垣根は関係しない。そうした空気のもとで、一緒に上海におけるサステナブルな建築のありかたを学び、あるいはデジタルテクノロジーの好ましい可能性を感じ取る。最終日には共同声明に署名するのだが、そこには<普遍指向>の眼差しがあるのはいい。
さて、先ごろローマ教皇フランシスコが来日し、広島や長崎などで核兵器や軍拡の愚を糾し、また、社会の貧困に苦しむ人にあたたかな眼差しを注いでいった。教皇が取りしきったミサ(祈りの儀式)に立ち会うと、会場は38年前のヨハネ・パウロ2世来日のときと比べて、多文化の要素がずいぶん目立つようになっている。ここにはアジア全体で教皇を歓迎するために来日した人たちもいるが、それをはるかに上回る、多文化の在日居住者/信徒の存在感が高まっている。ミサのなかにある「共同祈願」という祈りの場面で、ラテン語・英語・ベトナム語・韓国語・タガログ語・スペイン語の話者が次々と登場するところでは、いま世界にある社会課題を共有しようとする思いに満たされていた。
災害の多い一年、国家間の対立がぎすぎすした2019年がそろそろ終わりに近づいている中、世界をつなぐあたたかな言葉、さらに踏み込んだ共同行動を皆が欲しているようにも感じられる。<普遍指向>が一歩進む2020年であってほしい。

佐野吉彦

誰かに代わって、言葉を伝える役目。

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