建築から学ぶこと

2009/10/21

No. 201

寛容と不寛容の経験から

キリスト教の歴史を追ってゆくと、宗教的な寛容と不寛容をめぐって、大きく揺れ動いた2000年であったことが分かる。幾度かの大きな分裂を経験したこと、宣教によって宗教圏域を拡大したり失敗したりしたこと。寛容さがあれば避けられたことはずが、時にまともな衝突を招いている。現代とは、それらに学びつつ、リカバリーしようとしている時代と言えようか。不寛容をめぐる蹉跌からの再出発というのは、多くの宗教が多かれ少なかれ持つテーマだ。古代から中世まで、宗教は政治に連動していたのだが、政治と微妙な距離感を持ち始めた近代を過ぎて、客観的もしくは本質的な視点から社会と向きあう現代に至っている。しんどい歳月を経験した宗教は、たくましくもあり、冷静である。宗教の根幹を揺るがせることなく、知恵をひとつひとつ加えて鍛えてきたのである。

そもそも、世界宗教の信徒というものは、国家のように固有の国土や国民という概念を前提とせずに分散しているもので(そうした概念の成立以前に分散していたとも言える)、いかに情報と理念を共有するかに意を用いてきた。ユグノーの迫害によるディアスポラをつなぐネットワーク、東西ドイツの分裂時代における教会が果たした役割など、近代以降は<人が取り組む具体的なアクション>が、異なるポイントを積極的に結んできたのである。こうした知恵が、国連やEUの成立、アムネスティ・インターナショナルやロータリークラブといった活動に、好ましい影響を与えていることは間違いない。

建築におけるUIA(国際建築家連合)も例外ではない。それは、同じ職能を結びつけ、現代社会が直面する課題にともに向きあうためのエンジンとなっている。建築家の育成や設計活動が国家や国土を越えるものとなってきた今、宗教が通過し試みた経験が、形を変えて大いに活かされていると言えるだろう。

佐野吉彦

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。