2020/09/02
No. 735
前任者に代わる急な就任。私は団体活動で3度そういう立場になったことがある。退任の理由はいろいろだったが、引継ぎの機会がないので、任務は想像力に拠るしかなかった。この経験からすると、非常時にはまわりは安定した継承を望んでいるので、後継者は注意深く走り出すものである。安倍総理の後任は9月2日の時点では未決定だが、誰がなってもいきなり急激な変化は起こらないだろう。まずは、前任者のことより、まわりの意思をじっくり見定めようとするからだ。
だが、人が変われば同じタイプであるはずがない。担当する分野への関心度、取り組み方も変わり、その過程で相談相手やチーム編成にも自然に変化が現れる。たとえば、戦後日本の都市のかたちを変えた政策を振返れば、田中角栄<日本列島改造論>や大平正芳<田園都市国家構想>のような国土構想のあと、中曽根康弘、時を置いて小泉純一郎が<規制緩和と民間活力によって都市を再生する>政策を推進している。それぞれ、法整備などを通じて現在にも受け継がれはしているものの、ひとつひとつの背景や思い、趣が異なっていることがわかる。
一方、安倍総理の取り組みの中では、政権の後半で、医療・健康・高齢社会など、これまでにはないテーマと向きあったことは重要だったと思う。これらは後任者がバトンを受けてゆくべきだが、必ずしもこれまでの常識が使えない局面になってきている。そうなると、原田泰氏が書いているように、これからは「あらゆる分野で、課題解決に向けて適切な人材をより広く選ぶことが必要だ」(「委員会の選定過程でオーディションのない国、日本」Wedge誌 2020.9)と思われる。新しい政権のチームづくりでは新しいことを試してみてはどうか。