建築から学ぶこと

2023/10/11

No. 888

宇都宮の新たなリズム

人は、特に若い時期ほど遠い場所に憧れる。学生時代、東京から思いを馳せたのは海の向こうであり、日本の辺境や山頂であった。従って、地続きの宇都宮には目が向いていなかった。もっとも、当時は東北新幹線の開業前だからそう近くもないのだが、やや地味に感じていたかもしれない。今や、東京からは1時間を切り、広域道路網が伸び、住みやすさのランキングでは常に上位に位置している。医療福祉を含めた生活基盤も充実し、自治体は移住支援に積極的に取り組んでおり、発信力もぐっと高まっている。
さらに食文化の魅力づくりも熱心だし、さまざまな文化やスポーツの魅力も整ってきた。ここには男子バスケットボール・Bリーグの「宇都宮ブレックス」があり、また10月に開催される、今やアジアでは最高位にある「ジャパンカップサイクルロードレース」が多くの選手や観客を呼び寄せている。メインのレースは西寄りの郊外が会場で、中心市街地では短距離レースもあり、街にいいリズムを与えている。こうして宇都宮はインバウンド観光の拠点としても成長してきた。
さらに8月には、全国的になかなか事例が拡大しないLRT「ライトライン」が、JR宇都宮駅東口から芳賀町まで開業した。沿線にある大学や工業団地やスタジアムを縫い合わせ、鬼怒川を悠々と越えてゆく14.6キロを走る黄色の2両編成は、地域に小気味良いリズムをもたらしている。このLRTは、地下鉄より輸送単位は小さいものの乗降には利便性があり、その姿は宇都宮が目指すコンパクトシティの理念を体現していると感じる。いわば動くメッセージと言えるだろうか。将来構想にあるように西に延び、JRと東武の両宇都宮駅周辺が結ばれると、なおその理念はクリアになるだろう。この街の楽しみがさらに高まっただけでなく、地方中核都市が生き残るためのヒントを提供する試みだ。

佐野吉彦

小気味良いリズムは、東口から。

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