建築から学ぶこと

2024/01/10

No. 900

鮮度を保つために

年が明けて、この連載が900回に達した。始めたのは2005年の9月で、私は51歳になる直前だったから、それほどの時間が経っている。2005年は国内外で交通の大事故が相次ぎ、11月に耐震偽装事件の発覚があった年である。いずれも運営システムのほころびが指摘された。夏にはハリケーン・カトリーナが米南部に大災害をもたらし、ブッシュ大統領の対応が甘いと批判が高まったことを記憶している。日本は小泉政権下で、中・韓との外交関係が緊張し、郵政民営化法案が可決した年でもあった。全般的に悪いという年でもなかったが、死亡数が出生数を上回り、人口の自然増加数がマイナスになった節目というところは重要である。
こう眺めると、2024年の年頭も同じような課題に直面している。2005年にはまだ姿を見せていなかったスマートフォンが個人のリスクを減らしてきた面はあるが、社会の高齢化はコミュニティとしてのリスクを高めているだろう。能登半島地震の被害に関しても、木造住宅の耐震化未達の解消がポイントと考えるだけが再生の対策ではない。それをどこまで個人負担できるかについては経済力の地域差がある。時代と場所によって災害対策は違うはずだ。
さらに、環境危機についても喫緊であり続けているから、時間をかけても様々な手を打ってゆくべきである。2024年は、いろいろな危機を切り抜けてゆくなかで、いかにコミュニティや地域の「鮮度」を保ち続けてゆけるか。それは建築の専門家にとって重要なテーマである。そして、冷静で想像力のある政治家が果たす役割は大きなものがある。ドイツにメルケル政権が誕生したのは2005年で、そこから長期にわたり政治と国家の鮮度を持続できたことは評価できる。それに学びつつ、今年創業100周年になる安井建築設計事務所からも、鮮度ある提案・提言を続けてゆこうと思う。

佐野吉彦

新しい東京オフィス(神田美土代町)にて

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