建築から学ぶこと

2012/05/23

No. 326

建築と記念碑が語るもの

ワシントンDCは、フランス生まれの都市計画家ランファン(1754-1825)が構想した理想都市である。格子状の街区と、パリを思わせる斜めに走るアヴェニュー、それとともにまとまった大きな緑地。建築の高さが抑えられているため、空は大きく感じられる。中心ゾーンはオフィスや商業施設よりも国会議事堂などの政府機関、スミソニアンの美術館群の存在感が大きいこともあり、風格が備わる首都景観である。しかしながら、私が初めて訪れた24年前はもっと殺風景な印象があった。その間にジェントリフィケーション、すなわち高級化志向の都市整備はずいぶん進んできたのだ。

ワシントン、ジェファーソンが切り拓いたこの国の草創期にフランス由来の理想主義が育ったことは、この首都の基本的性格と切り離せないものがある。その後もいくつも記念碑や記念建築物が重ねられていった。都市景観のなかから、理想とは追求を続けるべきものというメッセージが伝わる。それにしても、それぞれの建築や記念碑が国難の記憶と重なりあうのは興味深い。ワシントンモニュメントは独立戦争と、リンカーンメモリアルは南北戦争と不可分であるが、第二次大戦や朝鮮戦争を経て、ベトナム戦争メモリアル(マヤ・リンの設計による)がつくられた時代まで来ると、それらは悲劇を伴う戦争の鎮魂の意味あいが深まる。DCの郊外だが、9・11でDCを目指す飛行機が墜落した場所にもメモリアルがつくられた。

さて、国家にとって「重い」経験を語り継ぐためには、訪問者がこうしたメモリアルを訪ねる者がじっくりと学び、大切なことに思いをめぐらす時間が重要となる。そのために建築に大きなスケールが与えられるのだ。DCにある大きな建築の意味は、そういう視点に立てば、うまく読み解くことができるだろう。

佐野吉彦

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