建築から学ぶこと

2012/07/04

No. 332

強いリーダーシップも重要だけれど

宗教改革の中心にあったマルティン・ルターは、強いリーダーだったと言えるだろうか?彼は「95箇条の提題」を書き起こし、ローマ教皇と対峙するかたちになったけれど、当時のカトリック世界を解体する闘争に打って出る考えはなかった。結果として16世紀は、北ヨーロッパにプロテスタントの存在感が確立した世紀となったが、その版図までルターが描いていたわけではない。彼の貢献とはドイツの民衆が読みやすい形に聖書を翻訳し、共通の概念を整理したことで、その成果がプロテスト世界とその文化の揺るがぬ基盤を築いたことにある。つまるところ、彼の功績とは、卓越した言語能力によって世の中を落ち着かせたことになるだろう(*)。

社会でも企業でも、共有されている論理が安定していることは平時も非常時も底力になる。それがあってはじめて効果的な役割分担が成立するからだ。流動的な状況のなかから無理なく次のステージに移ってゆくときなど特に、複数の個性がいかに適切に役を演じわけて連携できるかがキーポントになる。そのために、メンバーの行動の基礎となる確かな言語の存在が必要になる。往々にして、強い個性は時代を切り替えそうに思われがちだが、かれらは身の丈に合わない論理、詰めの甘い論理で飾る傾向がある。流動的な状況には、むしろしっかりしたベースが重要なのである。

設計プロセスにおいては、発注者組織と設計組織が有効に機能していなければプロジェクトは維持できない。建築の歴史を綿々と支えてきたのも、冷静なリーダーとフォロワー、そして安定した運営/生産システムなのである。ここでも、下を支えるベースは重要だ(ルターのような能力が必要かどうかは別として)。見識のある発注者が優秀な建築家と切り結んだという物語は、その上に生まれる。

*参照: 徳善義和「マルティン・ルター −ことばに生きた改革者

佐野吉彦

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。