建築から学ぶこと

2014/06/11

No. 428

都市を変えてゆく眼差し:ハイデルベルクにて

フランクフルトから1時間のハイデルベルク市(ドイツ)は、15万人ほどの都市。この美しい街には、1386年に創立して今も医学・化学はじめ多分野で屈指の研究能力を有するハイデルベルク大学があり、それを中核とした知的な伝統がある。また、当地は16世紀中盤の宗教改革時にプロテスタント側の知的戦略拠点となったように、伝統には強靭な力が宿っている。

第二次大戦では、都市機能の破壊を免れたゆえに、伝統は戦後に円滑に引き継がれた。ハイデルベルクは積極的に国際ネットワークづくりを進めて知恵をさらに厚くしてきたが、現在、進駐していた米軍の任務が終了して生み出された広大な基地跡地や、すでに開発が進む鉄道駅用地が、伝統をさらに前進させる転回点になりそうである。かくして<知的能力の向上と雇用創出による経済発展>、<既存の都市構造再編と新たな視点の都市づくり>は、ハイデルベルクの一層の充実のための両輪のテーマとなった。同市は2022年のIBAハイデルベルク(国際建築展、だが具体的な都市づくりが基本方針)を節目と考えているが、1987年のベルリン、99年のエムシャ―パークで成功したような都市システム変換を、どのように達成するのか。キーワードは<Wissenshaft Stadt(Knowledge-based Society、知識を基盤とした社会/都市)> である。

その流れを受けて昨年設置されたのが市の機関<Center for Cultural and Creative Economy>。技・芸に長けた者の活動ならびにニュービジネス挑戦をバックアップする組織と施設である。先般訪れる機会があったが、入念に目配りしながら<民の力>の上昇に努めている。都市にある様々な経済活動をつなぎ活性化する人材が育つことが期待されているが、ハイデルベルクは大きな都市戦略のなかで、これまで欠けていたしなやかさを獲得するであろう。

ところで、この施設<Dezernat16>は元消防庁舎で、私はここで日本の都市/地域開発でアートと建築がもたらすソフトな力について講演した。少なからず、世界各地に起こりうる課題を共有した時間。知恵を生みだす場所は、開かれた精神を持つ広場なのであった。

 

佐野吉彦

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