建築から学ぶこと

2011/07/06

No. 285

純粋に、実感する

映像制作を通じて日本の文化的アイデンティティを探る。JICP(日本人のアイデンティティ文化発信実行委員会)は、藤原次郎さん(映像作家)、奥村恵美子さん(映像プロデューサー)、石丸信明さん(建築家)らを中心に、2004年から活動を続けている。国際共同制作を含めた多様な映像を社会に向けて積極的に送り出し、国際的にも足がかりを築いてきた。その取り組みのなかでこの春、「51プロジェクト」と名づけた試みを始め、10分程の映像作品が完成した。

それは、3月11日の震災から51日目にあたる5月1日に撮られた映像群から成る。「誰かと、あるいは何かとつながりを感じた瞬間を送ってください」という呼びかけに応じた40名ほどによる映像が藤原さんの手で編集された。そこには、静かな日常風景や結婚式、家族の語らいなど、淡々と情景が重ねられてゆくが、その裏にある悲惨さは直接的には語られない。それでも、さきごろこの映像がドイツで上映されたおりには、深い意味を宿すものと受け止められたようだ。先週大阪であった上映会では、参加者がそれぞれの思いと重ねあわせているようにも見えた。

しかしながら、ここでの藤原さんは震災にまつわる余計な言説を取り除き、制作者の意図は顕れない。私はそのことに重要な意味があるように思った。ここに至るまで、さまざまな報道やネット上の語りは、人それぞれが実感しようとすることを妨げてはいなかったか。私は映像提供者の一人であったのだが、どのようにそれが扱われたのかはその日初めて見た。適切にそれは置かれていた。私が何を感じていたかを客観的に見るのは興味深い経験であった。この作品「My Day, May Day」は毎年同じ日に撮り続けてゆくことになるのだという。深い意味は10年経ってから感じとろう。

佐野吉彦

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