建築から学ぶこと

2013/11/13

No. 400

振り返り、行く手を望む秋

晩秋の11月あるいは収穫の季節は、先人や自然の恵みへの感謝の心が巧まずして生まれるものなのか。米国の感謝祭も、元来は新嘗祭であった日本の勤労感謝の日も、五穀豊穣を祝う行事である。いずれも豊饒は一代にして成るものではないという慎み深い視点に立つ。カトリックでは11月を「死者の月(霊魂の月)」と定めて死せる魂を慰める重要な月としており、プロテスタントも死者に対する畏敬の念を表す習わしがある。ここでは、肉体の死は魂の終わりではなく、それゆえに生者は死者とつながっていると考えられる。宗教・世俗を越えて、11月は慎み深い感情が漂う、しみじみとした季節である。一方、年の瀬を控えたこの月は、江戸の「酉の市」や大阪船場の「神農祭」の祭事で賑わう月でもある。前者は熊手、後者は張り子の虎が象徴で、それらを求めて社に詰めかける人々には、明年の繁盛と健康を見据える真剣な眼差しがある。

さて、この連載は今回で400回に達した。2005年9月から、時のうつろいに振りまわされないようにと決めて始めたところ、同年11月には構造計算書偽造事件を発端として建築士法改正につながる一連の激動があり、進行中の社会問題から眼をそらすわけにはゆかなくなった。むしろ、そのなかに本質を見出してゆくことにした。2005年は米国でのカトリーナ災害の年で、その後に東日本大震災があり、今年の伊豆大島や最近のフィリピンでの台風災害は記憶に新しい。このような激甚災害とその克服プロセスと向きあうことで、今後の建築と都市づくりを考える上で、重要な教訓を得ることもできた。

人類の歩みは自明ではなく、解き明かすべき過去と過誤は山のようにある。事実から知恵を汲みあげ、着実に改良を加え、次の時代に引き継ぐのは現代に生きる者の役目。穏やかな季節は、道程を振り返り、歩みのリズムを確かめるにふさわしい季節だ。

佐野吉彦

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