2017/08/30
No. 587
ピアニストは、両手で異なる旋律を弾く。これにペダルを押さえる足も駆使していて、、諸事が同時平行する。その修練が音楽の全体を見渡す感覚を養うのだという。そのようなことを語っていたのはピアニストの青柳いずみこさん。イマジネーションあふれるプログラムで、耳のツボを刺激するこの現役のピアニストは、文学に対する深い理解においても知られる。さらに先ごろの記事ではスポーツに視線を広げていた(*)。記事によれば、日本の水泳競技は国際的レベルで一度凋落するまで、各選手が所属するスイミングスクールごとにトレーニングして情報交換もなかった、という。他のコーチの指導を受けることができ、コーチ間のミーティングも設けられる方向に変わったことでメダルラッシュという結果が表れた。ここでは、コーチが長期的に同じ選手を指導すると客観的視点を持ちにくい弱点を取り除いたことが大きい。それこそは、ピアニストの指導にも適用できるもので、技術の向上や腱鞘炎の治療に至るまで、幅広い情報共有を進めることで、プロのチャレンジを支える基盤がさらに整うのではないか、と青柳さんは考える。
ところで、建築学科の学生には、夏休みなどを活用して学外の「他流試合」に臨む機会がいろいろある。たとえば比叡山で開催された「建築学生ワークショップ」のような他大学の学生との共同作業、設計実務組織で短期間働く「インターンシップ」は、自らの取り組み姿勢を問い直す上で効果的である。そこでのプロからの指導や評価も、初めて顔をあわせる緊張感がお互いに有益だろう。
それでも、青柳さんが例示した水泳で言うなら、指導するプロ同士の情報共有がもう少しあれば具体的なコーチングが可能となる。付け加えると、ピアニストと同じように、造形やマネジメントなど多彩な能力を扱える若者ほど、独善的なオトナにならないようアドバイスするのがいいかもしれない。余計かな。
*「ピアノとスポーツ」 日本経済新聞 2017年8月27日