建築から学ぶこと

2023/12/27

No. 899

建築の部位に宿るもの

建築の部位とは<機能>であり<象徴>である。建築のはじまりとしては「壁」は室内環境を一定に保つために設けられ、「屋根」は風雨を凌ぐものであった。「窓」は光を取り入れ、内外を見通す目的で穿たれた。これらが部位の持つ<機能>の側面である。<象徴>として見るなら、「壁」は室内で行われている活動を外に表すものであり、「寺社の屋根」には宗教の特性を体現する役目がある。「窓」については、寺社の壁の高い位置に設置すると、もはやそこでは外を覗く役目は果たさない。一日の光の変化を感じはするが、精神性を宿した<装置>として扱われる。
たとえば、教会のステンドグラスは、教義を説く手段として雄弁である。カトリック教会では「十字架の道行き」と呼ばれる、キリストの受難のプロセスが絵として掲げられていて、ここで教義はストイックに説かれている。ステンドグラスに描かれるのは、それよりも親しみやすい題材やパターンであり、透過する外光をうまく使って柔らかさ、慈悲深さの表情をつくっている。聖堂の内部は、このように硬軟の性格を並存させながら完結しており、窓が開くのでもなく、建築内外の音が混じることもない。「窓」という<装置>は人のマインドを巧みに誘導している。
聖堂とは元来、スタンドグラスからの光とろうそくの灯しかない、ほの暗いものであった。一般の建築も同じようなものだっただろう。近代以降に汎用性を得た人工照明は、建築の部位としての独自の存在感を発揮するようになった。照明には自然光と同じく、明るさの確保という<機能>も彫塑的な<象徴>も備わっている。同時に、輝かしい光の存在は、人の視野を上方に拡げ、人をダイナミックに行動に導く。近代に至って、建築の部位という<装置>は人のマインドを大きく揺り動かすものとなったのである。

佐野吉彦

木内真太郎による夙川教会のステンドグラス:
1930年前後の日本にはステンドグラス文化があった

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