建築から学ぶこと

2024/02/07

No. 904

それは福岡らしい視点かも

どうやら私は九州出身の友人に恵まれているらしい。彼らからかかってくる電話には、しばしば「今飲んでいる相手があなたの知り合いとわかったので嬉しかったから」というものがある。そして、その相手と話をする展開になる。急用でもなく、関係の裏付けを取るためでもない。どうやらそんな感じで輪をつなぐ方法論がとりわけ福岡あたりの人々に自然に備わっているようなのだ。
建築家の松岡恭子さんが、ゆかりの地であり、現在の拠点である福岡で2009年から続けている、建築と市民をつなぐ活動は、きっとそんな感じで、人と人を結び合わせる仕掛けとも言えるだろう。人が名建築をつくり、建築が人を育て、市民が建築をうまく使いこなすというサイクルは、人と人とが濃厚につながっていないと成り立たない。そしてそこに文化が胚胎するという次第なのである。現在、松岡さんが理事長を務める「福岡建築ファウンデーション」は、順序で言うなら前回・第903回で紹介した「生きた建築ミュージアム大阪」の上流にある。福岡の人々も大阪の人々も、同じように人のつながりを見出し、そこにある濃さを楽しんでいると言えるだろうか。
実際、輪をつなぐというのは、まさしく新たな関係性づくりで、同質同朋の交わりではない。それは居心地の良い場だが、懐かしい過去への眼差しからは発展性が生まれにくい。一方で、未来を追いかけ過ぎるとすぐに陳腐になる。安定感に程よいスパイスを加えることが重要である。その認識は都市が脱皮しながら生き残るための冷静で無理のない視点を生む。私は、松岡さんの近刊「街を知る 福岡・建築・アイデンティティ」(古小烏舎2023)の隅々に見える健全な思想は、福岡的な発想なのかと思ったりもする。そこから日本がダイナミックに歩を進めるのなら嬉しいことである。

佐野吉彦

これは、まちのための普遍的な知。

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