2017/11/01
No. 596
10月の大阪は<生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪>(略称:イケフェス)の季節である。今年も、近・現代建築の公開、見学ツアー、トーク、コンサートなど、昨年とほぼ同じ101件のプログラムがラインナップされた(開催:28・29日)。大阪市の事業から民間運営に移行し、現在で5年目となる今年は、建築に関係する他の組織の主管企画との連携が進んできた。イケフェスそれ自体の充実だけでなく、会期内外に開催される、多様な建築イヴェントを横つなぎする役割を果たすようになっている。
今年は、御堂筋開通80周年の節目でもある。建築や都市景観に対する一般の認識も高まりつつあり、近代建築の再評価・再活用も進んできた。たとえば「丼池繊維会館」(1922)や「西長堀アパート」(1958)などは、現代のニーズに合わせての切れの良い改装が完了したばかりであるが、これらの見学もプログラムに加えられている。
イケフェスでの私は、安井武雄が設計した作品を巡覧するツアーガイドを務めたことがある。今年は作品のひとつ、御堂筋に面する「大阪ガスビル」(1933)を会場として、石田潤一郎・京都工芸繊維大学教授とともにこの白亜のオフィスビルについて解き明かすトークに登壇した。私の切り口は、この意欲的な作品は同時代の世界のモダニズムの目指すものと呼応しているというものである。それは取りも直さず、大阪という都市や大阪の事業者たちが、高い志を持っていたことを背景にしている。すぐれた建築はすぐれた都市環境によって生み育てられた。
一方で、今年は設計事務所のオフィススペースの一部を公開するプログラムが本格化している。これまでは安井建築設計事務所だけの参加だったが、日建設計、東畑建築事務所、それに中之島の新美術館の設計が進む遠藤克彦建築研究所が加わり、建築とともに歩む大阪の近代から現在までを幅広く捉えることが可能となった。もはや、イケフェスは建築の祭りに留まっていない。大阪全体がまるごと大きなミュージアムなのである。