建築から学ぶこと

2009/11/18

No. 205

かたちは、人の契機となる

人の活動を包みこむ建築が、人のモチベーションに影響しないはずがない。建築を介して良好なコミュニケーションが生み出されれば、建築家の本懐とすべきところである。教育施設のような人を育てる空間ならば、建築が印象深く、機能的であり、かつ建築そのものが優れた教材となることをわれわれは望んでいる。もちろん、ベースに優れた教育理念や哲学がなければ、たちまち無力になってしまうだろう。施設設計の過程のなかで教育サイドと建築家が刺激しあう関係を結ぶことは重要である。変わらぬ理念をどう受け継ぐか。あるいは、時代の変化とどう向きあうか。使われる段階で同じ関係が、適切にフィードバックを行なってゆくことは望ましい。

さて、手塚貴晴・由比さんの手になる「ふじようちえん」はドーナツ状の平面で、その屋根を子どもたちが走りまわっていて、至るところに古樹が枝を広げている。楽しい瞬間がゆるやかにつながっている空間だ。記憶にしっとりと定着して、子供たちを育むことだろう。一方で、教員が子供のさまざまな動きを見逃さないという細やかな運営も注目される。こうした幼稚園の信念が手塚さんたちの起用を生み、好ましい結果をもたらしたのである。

先日、東京都市大学の建築学科棟(*)を訪れる機会があり、ここで教鞭を取る手塚さんに見どころを案内してもらった。中央にある、レクチュアやクリティックが行われる吹き抜けたゾーンを、上階の階段状の座席や、研究室やゼミ室などが見下ろすという、都市的な風景だ。学生たちが思い思いの場所を占めて作業にいそしむ姿は(爆睡しているやつもいるけれど)実に建築学科らしい自由さを感じさせる。この恵まれた空間は学生の成長に手を貸すものだが、ぜひここに閉じずに活動が広がることを期待したい。それは学ぶ側の問題であるけれども。

佐野吉彦

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