建築から学ぶこと

2016/09/14

No. 539

公共財を育てるために

医療クラスターは、高度な医療を提供する病院、研究拠点である大学、それらと連携する医療産業などで成り立つ場所のことをいう。その整備は都市の力を高め、優秀な人材を集めるだろう。また、そこでの高度な医療は生活の質を支える役割を果たし、さまざまな人々に大きなチャンスをもたらす。しかもその地域に住む人々のために留まらず、これからの日本の強力なマグネット、成長の弾みをつける触媒となる。
もちろん医療については、住まいや職場の身近なところにある町医者の安心感も捨てがたい。ちょっとした発熱や予防注射、関節や筋肉の損傷、歯科医療などの治療は日常におけるセイフティーネットとなるものであり、診察でのシンプルな一言だけでも明日への力をもたらす。医療は地域のすべての人々の「公共財」になっていると感じるが、ここでは先進性と日常性の両方がバランス良く整うことが望ましい。
似たようなことで考えると、社会にあるシステム、たとえば生活を支える鉄道ネットワークなどがどのように人の不安を取り除いているかをチェックしてみたくなる。いまは新幹線に比べるとローカル路線の利用の便との落差が大きい状況にある。言ってみれば日常的な医療にあたる部分に改善の余地が山ほどあるのではないか。総じて、いつも便利で安心、となるためには細やかな手入れやフィードバックが必要であり、関わりあう人々が絶えず理想を求めて提言を重ねることが必要である。日本の近代がつくったネットワークが衰えても、そこに新たな知恵を埋め込んでゆけばよい。
地域のマスタープランやガイドラインの充実には期待するが、継続的な官民連携があってこそ人も地域もいきいきと動きはじめる。底堅い力を蓄えた地域には、いいチームプレイあるいは確実なバトンリレーが起こっているものだ。

佐野吉彦

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