建築から学ぶこと

2019/12/25

No. 702

人の縁、デジタルの縁が人をつなげる年に

2020年春に常磐線が全線で運行を再開するという。9年にわたる途絶がようやく解消されるのは嬉しいことである。先ごろ常磐線取手駅の駅ビル「ボックスヒル取手」にオープンした施設「たいけん美じゅつ場(VIVA)」の開業式典でのJR東日本代表によるあいさつには、常磐線再活性化への意欲と期待がこめられていた。
施設はJR東日本・アトレ・取手市・東京藝術大学(取手市にキャンパスがある)が2017年5月に結んだ「取手地区の地域発展に向けた四者連携協定」に基いて設置が実現した。そのようなわけで各者の特徴がにじむ「市民ギャラリー」・「ライブラリー」・「工房」そして「東京藝大オープンアーカイブ」がワンフロアに共存している。ちなみに<たいけん>とは、アートに出会う<体験>であったり人と出会う<体験>であったりするので、異種同居、多様性の包摂は意図したコンセプトである。藝大が所蔵するアートの所蔵庫が共用通路から見えてしまう、という面白い趣向もある(澤田諒さんによる切れのある空間だ)。ちなみにこの施設全体の運営は、20年にわたって活動を続けてきた「取手アートプロジェクト」(佐野吉彦がNPO理事長である)が担当する運びとなり、取手の主たる活動体がこの核で結び合うことになった。
取手でのチャレンジは、今まで見えにくかった人の動きを、目に見える形でつなぐことにあった。ところでいま、森美術館で「未来と芸術展」が開催中で、AI・デジタル・ロボットを介した、インタラクティブな創造プロセスが網羅的に紹介されている。この視点を取手での試みと重ねて考えると、ワクワクする先端テクノロジーをいかに社会の課題解決や人々の充足感につなげるかが鍵であることがわかる。2020年は、<デジタルの縁>をうまく使って<人の縁>を活性化させ、地域の明るい未来を生み出す年になるといい。そこに建築設計者がかかわる出番は多くなるだろう。リアルとバーチャルを行き来できるのは我々なのだから。

佐野吉彦

VIVA開館記念のトーク。日比野克彦氏(藝大美術学部長でもある)ほか

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