建築から学ぶこと

2008/12/17

No. 161

7時のニュース、最後のニュース

サイモンとガーファンクルに「7時のニュース」という歌がある(*1)。聖夜の静かな調べとともに、読まれるラジオのニュース。時代を左右するシリアスな局面に、神は黙したまま姿を現さない。どこにいるのか?きっと、そのできごとにかかわるひとりひとりに静かに寄り添っているはずだろう・・・。この名作は、1960年代後半のアメリカの空気を伝えるに留まらない。時空を超える真実が宿っていると思う。

音楽と現実は、どちらが前景で、どちらが後景なのだろう。この「7時のニュース」と響きあうものを感じるのが、「ニュース23」(TBS系)のかつてのエンディングだった。その日のニュースのダイジェスト画面に乗せて流れる歌。それは季節ごとに替わったが、私にとって印象深いのが、武満徹作詞作曲の「翼」だった(*2)。

今年亡くなった、その番組のキャスター・筑紫哲也は様々な分野のアートに関心を持ち、それらが宿す力と使命を理解していた人だった。アートは見えないものをかたちにし、人の心に語りかけ動かし(揺さぶることもある)、時にそっと背中を押すもの。彼は表現者に社会の中での正しい位置を与えようとしていたと思う。ジャーナリストはその局面にふさわしい言葉を探す仕事だが、筑紫は、アートにはその状況を超える役割を期待していたのではなかったか。

「翼」は、殺伐とした画面を和らげるためのBGMや後景ではなかった。だが、そこに置かれたとき、輝きを放っていた。そこに本質が含まれていたからであり、希望を捨てるべきでないことを語っていたからである。建築にも、本来そうした使命がある。かたちという具体的なソリューションを伴う建築は、この時代だからこそ、ただしく役割を果たせるはず。そう信じたい。

佐野吉彦

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