建築から学ぶこと

2014/02/19

No. 413

謙虚なコミュニケーションが幸運を生む

成果に対する社会の評価、社会が認める功績というものは、往々にして当人が目指したものを越える。人の行動はつねに社会との相互コミュニケーションである。芸術作品の場合では、あざとい意図だけでは生き残れはしないだろう。狙い通りのヒットなど簡単に起こるものではないのだ。

経営も同じである。好例では、日本航空の大西賢・会長は、経営再建を短期でめざましい成果を成し遂げている。長引くと社員の意欲維持が難しくなるという判断に立ち、課題をシンプルに絞り込むことに成功した。自分は前社長の改革方針を実行したに過ぎない、と大西社長自身は語っているが、まさにやるべきことをきちんと徹底できる優秀な理系経営者。コミュニケーションの取り方の謙虚さが幸運を呼び寄せている。

社会貢献についても考えてみたい。古来「陰徳あれば必ず陽報あり」と言われ、陰徳を積むことこそ敬意を払われるとされるが、陽徳とて悪いものではない。重要なのは、そこに正常なコミュニケーションが成立しているかである。立命館大学が建設を進める「平井嘉一郎記念図書館」(総合図書館)の名称は、平井氏が生前大学に対して積んだ陰徳に始まりがあるものだが、そこには没後の資金寄贈を含め、大学からの敬意がこめられていると言えるだろう。市民の募金を集めて建設される「吹田市立スタジアム」(ガンバ大阪の本拠となる)では、壁面への氏名表示や、地鎮祭時に敷地に協力者全員を招いてのキックオフパーティ開催など、相互方向の関係づくりが試みられる。発注者の配慮工夫が細やかで温かなのは実にいい。

小さな例だが、私の母校の建築学科の学生たちは、各々の卒業設計を中心とした作品集を編んでいる。大学の予算ではなく独自の資金確保に努めながら毎年続けている。私はその進め方を初期からアドバイスしてきているが、立ちあがりの頃に促したのは、寄付金の入金を確認したらすぐに相手にお礼状を書く習慣を定着させることだった。それは学年が若返っても実行されており、そこで生まれた謙虚なコミュニケーションが次年の協力関係につながっている。人と社会を結びあわせるために丹精こめることはとても大切なのだ。

佐野吉彦

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