2012/11/21
No. 351
先日来この連載で告知してきた「つなぐことで、何かが起こる-建築から学ぶことⅡ」をこの11月16日に上梓した。連載の中からここ5年ほどの軌跡を収めたものである(141篇を抜粋)。WEBでの語り口と、本での見え方との違いを見極めてきた大森晃彦さん(建築メディア研究所)の手と頭を借りることで、本はまとまった。メキシコ在住のアーティストhanamaroさんや野本卓司さんなどのクリエイターの力を得て磨きがかかるプロセスもなかなか面白い。連載でも本でも、いろいろな分野の優れ者がどんな思考回路を持っているかに触れてきたが、ひとつの成果が実現する過程で邂逅するプロの技には素直に敬意を抱く。
ところで先日、ある団体の90周年式典・晩餐会を取り仕切る機会があった。ここで行事全体5時間ほどの流れの中に順に関西フィルハーモニー管弦楽団ブラスアンサンブルの前奏、諏訪内晶子ヴァイオリンリサイタル、山本能楽堂の舞、アマチュア混声合唱を埋めこむという、手間のかかる試みをした。会場のホテルのなかで時間と舞台設営を工夫して印象が干渉しないようにしたほか、海外からの出席者のためにプログラム冊子も日英表記とした。登場する人たちとの間には応諾から費用確定、当日のリハーサル時間区分けも含めていろいろ手数はかかる。ここでは、昨年のUIA2011東京大会の運営部会長としての経験が役立つことになった。
演目については、ぜひ観衆に媚びないでとお願いしたら、このなかでは諏訪内さんがシューベルト(ソナチネ第1番)とウェーベルン(4つの小品)とベートーヴェン(クロイツェルソナタ)という並びを用意してきた。精妙なウェーベルンを聴かせてクロイツェルソナタにつなげる趣向は本気のプログラミングである。空間にかかわる専門である私が努めたのは、真摯な表現者たちが手応えを感じ、観衆が快い印象を残す場を適切に組み立て・組み合わせることであった。それも、すべてその空間にいるプロに対する敬意からスタートするのである。