建築から学ぶこと

2011/11/09

No. 301

建築は人を育て、人とともに育つ

サントリーホールが開館してから25年。ここまで安定した活動を積み上げながら、演奏者の評価と聴衆の評価も同時に高まってきた。運営者が意欲的に取り組み、自主企画(ホールオペラ、サントリーホール・アカデミー、サマーフェスティバルなど)を継続してきたことは大きいだろう。肝心な「音」の手ごたえについては、演奏者と聴衆などが一緒にしっかりとしたイメージを紡いできたと言える。建築の目標というものは竣工時においてひとまず達成されても、その後自然に齢を重ねるには多くの人の自発的な連携あるいは共振が欠かせない。

このホールが皮切りの試みのひとつはプロのレセプショニストの配置であった。聴衆が快く時間を過ごすために、開館時から適切な接遇サービスを重要ポイントとして位置づけたのは慧眼であった。道具立ての工夫がイメージ生成・文化の生成に寄与しているのだ。新しい試みは、幅広い専門家が輩出してゆく成果につながってゆく。ちなみに、親子2代にわたるレセプショニストという例もあるらしい。

実は今年、東京文化会館も50年、ニューヨークのカーネギーホールも120年の節目である。建築の名声とそこでの記憶に残る名演とがあいまって価値を高めてきたが、もちろんここにも絶えざる創意が見出される。サントリーホールの運営もここから学ぶことも多かったと思う。そうやって建築はエネルギーを蓄え光を放ち、次の世代にインパクトを与える場となる。私は学生オケに所属していたのだが、ブルックナーの交響曲第4番を東京文化会館で弾いた経験は身体に染みこんでいる。

そのことは75年の国会議事堂も、100年となる石造の日本橋においても当てはまる。それらを往還した顔ぶれに重みがあるのは、かたちの力ゆえだと信じたい。それなら、現在の扱われ方・使われ方は、今後もそこにいる者にモチベーションを与え続けているだろうか。節目とは、これからどうするかの問題を考える局面である。そう言えば、建築士法は昨年が50年であった。

佐野吉彦

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