建築から学ぶこと

2008/03/26

No. 125

存外、やりがいのある仕事

宝塚市にある小林聖心女子学院は、阪急電鉄小林(おばやし)駅の背後、静かな谷あいを登りつめた丘のうえにある。そこに、白い建築群が樹々に囲われながら静かにたたずむ。アントニン・レイモンド設計の本館が最も歴史が古く(1927)、これが門を抜けたところの長方形の前庭の長辺を成している。その左脇、短辺の位置にあるのが竹腰健造の手による聖堂(1965)で、これらの壁面が連続し、キャンパスの前庭の風景を表情豊かなものにしてきた。今年ここに新しい小学校校舎が加わり、残りの2辺が整った。

おおよその構図は以上のようなものだが、新校舎の中身はそう単純な機能でできているわけではない。ただ、そうであっても簡潔なかたちで認識されることは重要である。小学校から入学すると最長12年を過ごす空間であるから、教育理念が明瞭に伝わることにはおおいに意味があるのだ。加えて、今年創設85年を迎えるミッションスクールの歴史を背負う学院であるだけに、まさしくミッション(使命)を正しく受け継ぐことが建築計画の目的のなかに含まれるはずであろう。そう考えるとこうした増築・増棟という仕事は存外、チャレンジングなものだ。

このプロジェクトが進む一方で、安井建築設計事務所の自社ビル(東京)の1階のリニューアルが完了した。これまでガソリンスタンドが位置していたスペースをインテリアショップに改装した仕事である。そもそも古い自社ビルの隣にスタンドがあり、20年前にそれを取り込んで合築・増床したいきさつがあった。付け加えれば、われわれが古いビルを建てる前にあった建物は解体して横浜に移築し、独身寮として長らく使っていて、それも16年前に建て替えた。つまり、この地(千代田区平河町)の歴史の証人は順番に舞台から退場していったことになる。振り返れば、この地をめぐって変奏曲を作曲してきたようでもあり、連歌を詠んでいるようでもある。それぞれの局面でどう巧みな受け渡しをするか、これも存外、腕の見せどころとなる。あとは、この地を昔から知る人が綺麗と感じてもらえば、これ以上の喜びはない。

佐野吉彦

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