建築から学ぶこと

2013/05/01

No. 373

50年の味わい

府中は、東京都心へのベッドタウンとして成長する前に、武蔵国の国府であり、大国魂神社が駅前に鎮座し、軍事都市・基地としての歴史もある。東京外国語大学が移転し、競馬場の賑わいがある多様さはなかなか興味尽きないものがある。50年前、武蔵野ビール工場を建設して府中に根を下ろしたサントリーは、ここを拠点にしてビール事業に乗り出した。その日から、府中は酒どころになった。先日、その半世紀の節目を祝う会があり、武蔵野工場からスタートした売れ筋商品<プレミアム・モルツ>の記念缶と、最初に醸造したビールの復刻版が供された。最初のビールはさらりとしたいい味がするが、後年のプレミアム・モルツと比べれば、ずいぶん「人のいい」穏やかさがある。工場建築は幾度も手を入れて維持されてきたが、味にもずいぶん丹精こめたと言える。なお、工場進出にあたっては近隣に複数の用地を取得したのだが、そのひとつがサントリー・サンゴリアス(ラグビー部)の本拠となった。こちらも花を咲かせ、安定感のある強いチームになった。

それらの発展は府中ゆえに達成できたのではないかと、考える。サントリー(寿屋)の創業者・鳥井信治郎はウィスキー工場に山崎を選んだのは、京都・大阪からの客の立ち寄りやすさを勘案した。舌の肥えた客とともに商品を育てようとしたのだ。それは山崎の初代工場長であり、のちに鳥井と袂を分かちニッカを創業した竹鶴政孝にはない着眼点だった。同じように、多様な文化と歴史を宿す府中は、ビールに独自のキャラクターと戦略性を加えるには格好の場所だったかもしれない。ここにおいて、高度成長で厚みを増した郊外の文化と情報が求める価値と響きあうポイントを見出したのである。

ちなみに、ラグビーについては、長年の好敵手である東芝・ブレイブルーパスの本拠が府中にあることも刺激になった。調布にはスタジアムもあり、いまや多摩地域はフィールドスポーツの聖地でもある。

 

参考:建築から学ぶこと第75回「多摩の魂」(2007.3.22)でも紹介。

佐野吉彦

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