建築から学ぶこと

2015/08/05

No. 485

プロの夏の節目

建築士には、3年に一度の定期講習が義務付けられている(2008年から)。国家資格の中では、同様の制度を有する弁護士や公認会計士などと共通する。確かに技能は積極的に維持を図るべきものだから、建築士は定期講習制度があってもなくても自発的に学び続けなければならない。その中での定期講習の意味とは、受動的に学ぶ一日を確保できることである。一方的に建築に関わる情報が万遍なく降り注ぐなかで、いろいろな新しい発見もある。現在の日本が、建築家/建築設計者が自らの役割を狭く限定していては生き残りが難しいものと考えると、受動的な情報摂取がきっかけで恵みの雨が生まれるかもしれない。少なくとも、単なる通過儀礼と割り切っては受講料がもったいないだろう。

もちろん私も受講義務がある。ある暑い一日、3年ぶりにテキストに向きあった。章立ては変わらないが、前回から今回の間には東日本大震災の事例をフォローしている建築基準法改正や、建築3団体が汗をかいた建築士法の改正が反映された。基準法のページには、「給湯設備の転倒防止対策」・「特定天井の扱い」などが盛り込まれ、士法のページには、建築士事務所の業務の適正化、たとえば「名義貸しの禁止と再委託の制限」などの記述を増やしている。技術のページでは、省エネルギー・環境配慮建築の評価、耐震診断や非構造部材の安全性などの解説をアップデートさせている。

概観すると、ずいぶん中身は濃くなっている。一方で、この知識の体系には、プロジェクトのマネジメント力、要素技術を統合する計画能力については言及が深くはない。それはこれまでの歴史の中で、建築士資格とは建築の専門家の基礎能力を保証するものだと位置づけられてきたからであろうか。建築設計に必要な力は、この講習とは別に、自発的に鍛えるべきものなのである。

佐野吉彦

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。