建築から学ぶこと

2023/04/26

No. 866

今度は、ビールの60年の話

前回言及した、府中にあるサントリーのビール工場は今年で竣工60周年になる。それは、同社初めてのビール生産拠点だった。今は国内4拠点に増え、府中では「サントリー<天然水のビール工場>東京・武蔵野」という呼び名のもとに、建築や生産ラインに手を加えながら醸造プロセスが維持されている。なお、竣工した1963年はサントリーが寿屋から社名を変えた年、すなわちビジネスがシフトチェンジした年ということになる。
安井建築設計事務所はすでに山崎蒸溜所でウイスキー醸造拠点の設計に携わっていたが、そこでの質感のあるテイストとは違って、ビールにチャレンジする先取りの精神にふさわしい、若々しく・グラフィカルな造形を工場に与えている。今の感覚であれば、工場の建築は合理性が第一のテーマであるに違いない。しかし近代の始まりは、ベーレンスによるAEGタービン工場(1910,ベルリン郊外)のように、象徴性の高さが宿るものだった。その意味では、1960年に入って新しいアーキタイプにすっかり切り替わったと言えるのではないか。
さて、どのアルコールも醸造プロセスには、加熱釜と冷却パイプを往き来する手順があり、その出来栄えをこまめに専門技術者が確認する手間が加わる。果たして水や麦芽などの原料は香り高いアルコールにうまく変容したかどうか。サントリーは初期から、そこにある技術探究と、物語のような面白さを、工場見学の機会を設けて広く伝えようとしてきた。どのアルコールにも見どころはあるが、語るべきポイントが多いのは、樽詰め後の時間が長いウイスキーである。そこで、府中では15年前の改修のおりに仕込釜を取り巻く壁を大きなガラス面に変え、ビール醸造プロセスの節目の姿を外からも際立たせる工夫をした。これもまた新たな工場建築が誕生した瞬間であり、ここでの先取りの精神はまだ続いていたのである。

佐野吉彦

1963年の工場の姿

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