建築から学ぶこと

2012/09/26

No. 343

磁力のある場所

学生時代から、長岡、直江津、そして糸魚川といった新潟県下のターミナル駅にはなじみがあった。それぞれ、乗り換え乗り継ぎの時間を利用して幾度も街をめぐったことはあるが、ほとんどは駅周辺の歩行圏にとどまっていた。それは幹線の夜行を待つあいだ。昔の私の目的は山に登るか、鉄道に乗ることそのものにあったので、当時の街の印象となると、結局は夜更けの風の吹く大きなコンコースということになる。

糸魚川駅は数ブロック先に海が見える。この結節点は、高流と直流の切り替え地点(デッドセクション)であり、渓谷を遡って安曇野に至る大糸線のさりげないゲートである。北陸本線車窓に広がっていた日本海とは少しばかり離れた平野は、糸魚川?静岡構造線の北端にあたる。近年はジオパークと名付けられて鉱石の見どころがクローズアップされたり、駅直近の雁木の通りなどがいい感じの集客ポイントになっていたりするなど、かつての地味さは脱してきているようだ。

一方で、私は谷村美術館がこの地にあったことを最近まで忘れていた。当地の施工会社・谷村建設の社長であった谷村繁雄氏は当地の名石を丹念に収集し、同時に優れた美術品を集めてきた人である。谷村氏は、彫刻家・澤田正廣氏の作品を展示する美術館を村野藤吾氏に委託する。そこから建築主と建築家の高度な対話、晩年の村野のテーマ深耕が始まった。いま見ることのできる、胎内的で、丁寧にえぐり出された洞窟的空間は、村野ワールドの極致となっている。

別棟に展示されているそのスタディ模型からは、濃密な設計プロセスを伺い知ることができる。設計記録がこれほど興味深く保たれているのは稀なることではないだろうか。人が行き交う結節点は、大きな個性同士が出会うステージでもあったのだ。ほどなく、当地には北陸新幹線が伸びて来る。

佐野吉彦

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