建築から学ぶこと

2023/08/23

No. 881

自然の厳しさと、乗り越えるエネルギー

この夏は、沖縄が台風の長期滞留に苦しみ、マウイ島ではラハイナの街が大火に見舞われ壊滅的な被害を受けた。こちらは乾燥した気候に強い風が加わって火が急速に拡大したのだという。それぞれの地には自然災害リスクがあることは予め認識されていたが、後者のように意表を突くこともある。災害はコミュニティにとって大きな試練となるだろうが、再生力と持続力に期待したい。
ところで自然の厳しさと言えば、山形県の冬も相当なものである。実は雪がもたらす水流は農地を潤し、県内各所での漁業に好影響を与えている。交通の便の改善もあって、山形食材の評価はますます高まり、文化と文化度の価値にもこのところ注目が集まっている。それは近現代建築の秀作を生みだす動きにつながっているに違いない。坂茂「スイデンテラス」(2018)もその一つだが、県内には黒川紀章「寒河江市役所」も谷口吉生「土門拳記念館」もある。これらの成果は建築の力を通じて、不利を軽やかに乗り越えようとするメッセージである。
さて最近、県南の米沢に近い長井市で公共施設の仕事に携わった。まず、長井には古くから盆地の人と産材の結節点の歴史がある。さらに駅前には長らくグンゼの工場があり、近代の街の経済的発展を支えただけでなく、グンゼがこの地で職員の教育に力を入れてきたことが、長井を支える人材の層を厚くしているようである。これらの歩みが、工場跡地に完成した「長井市・遊びと学びの交流施設<くるんと>」(図書館+子育て世代活動支援施設)を、長井市+グンゼ+グンゼ開発が官民連携(PPP)によって建設するという創案につながっている。
それは長井らしさの継承でもあり、人口減少傾向を留め、コミュニティを持続する効果をもたらす。繭型のやわらかい平面形状の「くるんと」は長い冬を活動の季節に変えるだろう。建築がそうした前向きの力を持つことを、山形の人は知っている。

佐野吉彦

繭の中で、学びが育つ

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