建築から学ぶこと

2023/06/07

No. 871

地域の未来をつくるために

このところ、地域再生のリーダーたちの話を聞く機会が続いた。地方は森や海といった豊かな資源に恵まれているが、何も手を打たないと人はどんどん流出し、資源の維持も産出もままならなくなる。そこで初めに<アートや魅力的な建築>で仕掛けを進めた。地域外の人々の関心を呼び起こし、地域内の人々の心を動かすにはメッセージ性が高い。それで訪問者が増えたところで手を打ち終えてもよいのだが、かれらリーダーたちは産業創出があってこそ人は地域に根を下ろすと捉え、さらにそのための<基盤を充実させる>必要があると考えた。
ハードで言えば、基盤づくりにはネットの整備と活用は欠かせないだろう。ちなみに遠隔地ゆえの交通手段の便の充実は重要だが、トラック輸送に制約がかかる今後を考えると、ドローンによる代替など、これまでとは変わった手が使えるかもしれない。
だが大事なのはソフトであり、とりわけ<人を育てる意思>である。実際、地方は熱心に教育改革への取り組みを始めている。それは人を惹きつける必須の基盤になるだろう。小中学校の統合は避けられなくても、縮小均衡ではなく、そこに未来のリーダー育成を重ねようとしている。私が話を聞いた2地方では、新たな教育機関の開設を地域の変革の鍵と考えていた。外部から若い層を呼び寄せれば、それだけでも地域には刺激になる。卒業後は定着する者もいれば、他地域で成果を挙げる者もいるかもしれないが、人が育てる場となれば本望ではないか。アートや建築の起用から始め、新たな技術を活かしつつ、次世代育成に熱意を持つ、懐の深いリーダーたちの登場は心強い。
では郊外都市はどうするのか。都心に近くてベッドタウン機能が充実し、まとまった商業集積があれば、帳尻は合っているようだが、地域の個性は埋没する懸念はある。順調な時期にこそ危機感を持って「基盤」をつくる必要があるだろう。都心に近い利点を活かせば、世界につながる発信や活動もしやすいし、似た状況の都市との連携もできる。いろいろな地域のビジョンづくりを目撃してみたいものである。

佐野吉彦

地方が育む新たな夢(奈良県にて)

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