建築から学ぶこと

2022/10/19

No. 840

地域からのメッセージを活かす(続編)

前回に続いて、地域の課題について考えてみると、いろいろな地域にある固有の文化は、たとえば祭や芸能といったかたちの中で継承されている。そこにはアーティスティックな価値がある一方で、教訓のようなものが埋め込まれているのは興味深い。ところが受け継ぐ人材の枯渇、自然災害による祭具や記録の滅失などが起こると、このような貴重な文化は一気に失われてしまう。また、今は持ちこたえても、ゆっくりと地域の力とともに衰える危険はあちこちに潜んでいるのだ。
最近、サントリー地域文化賞の2020年以降の受賞者の話をオンラインで聞く機会があったが、それぞれがプライドを賭けて伝統文化を支えたり、新たな潮流を根付かせるために知恵を絞ったり、社会事業を地域経済にうまく組み込んだりしている姿を頼もしく感じた。いずれの活動もずっと順風満帆であったはずはないだろう。新型コロナウイルス感染症は、あきらかに柔軟な交流を阻んだけれども、デジタルも味方につけて人材育成や活動の蓄積を進めている。その中で、どの世代も置き去りにしない意思があるのは素晴らしい。私この日に固有の文化に関する情報を得たというより、この時代にフィットしたコミュニティづくりの要諦に触れたと言うことができる。
これは地域の未来にとって明るい話題であるのだが、加えて、ローカルな文化が育ち、自然なネットワークが維持できていることは、広域圏や国の日常のサイクルに安定と安を生む。さらに言えば、ネットワークの中で育まれる感覚は民主主義の基盤をつくるものだから、そこから広域や国や世界を支える人材が正しく育つことも期待していいだろう。もっとも、それほど大げさな話でなくても、良い知恵は、ネガティブな状況を脱皮のチャンスと捉えたからこそ生まれるものである。

佐野吉彦

能古見人形(佐賀県鹿島市)

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