建築から学ぶこと

2015/07/15

No. 482

デザインビルドの可能性と覚悟

それぞれの国には、異なる歴史・風土を背景にして独自の建築生産プロセスが育ち、公共工事においては入札契約方式が整えられてきた。それに先立って資格制度と教育制度の整備があり、それらをベースにして建築にかかわる産業が興隆し、優れた建築家が登場してきた。能力は個人あるいは個々の企業に帰するとしても、制度を正しく維持し、適切に運用することが安定した成果を生み出すのは基本的原則である。そうして第二次大戦後70年のなかで、国ごとの制度の精緻化・適正化が進む一方で、他国制度とのインターフェイスは順次進展してきた。グローバルに拡大する建築生産活動のなかでは相互参入の障壁はまだまだ高いが、建築の専門家が目指す方向性は共有されてきている。

国土交通省がこの春に定めた「公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドライン」には、事業プロセスの対象範囲に応じた契約方式」のなかに「設計・施工一括発注方式」や「ECI方式(設計段階から施工者が関与)」等が挙げられている。これには米国のデザインビルド(DB)方式の影響を受けたところがある。もっとも、設計・施工チームという型は日本には元々あるわけで、かつてトヨタのカンバン方式のようなスタイルが米国の品質管理に影響を与え、それが再輸入されたケースと似たようなことかもしれない。

いまのところ、デザインビルドは土木分野が先行しているとは言え、見逃せない動きであるには違いない。工程・工事費と品質の管理に利があるとされているこの方式は、中心にデザインビルダーがいる設計・施工チームと定義される。米国の事情に即して言えば、デザインビルダーはコントラクター(施工統括者)が務めてもよいし、もちろん建築家/建築設計者が務めてもよい。そもそも、プロジェクトの始まりに建築家と顧客との間に信頼関係があるなら、ALDB、すなわち建築家主導(Architect-Led)のデザインビルドを貫くことでより良く目標を達成することができるはずである。現今の、建築家が自らの役割を狭く限定していては生き残りが難しくなる情勢、あるいはプロジェクトの責任の所在があいまいになりがちな状況を見れば、日本でのALDBの可能性を積極的に追求すべきタイミングにさしかかっている。それもまた見逃せない動きにしなければならない。

 

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佐野吉彦

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