建築から学ぶこと

2010/10/06

No. 248

都市のそこまでとそこから

湿気の多い9月の日本からワシントンDCに飛んでも、肌に触れる空気は同じようなものだった。この都市は独立後の1800年に始まる新首都で、初期政権内の取引によってフィラデルフィアから南部寄りの、ポトマック川・沿岸に移された。それゆえの湿気なのだ。都市のマスタープランを作成したランファンがフランス生まれであることと響きあうかのように、ワシントンDCの街区計画は、パリを想起させる。グリッド状街路に斜めにクロスするアヴェニューが特徴的である一方、かつて川が暴れていた痕跡は地形に残っている。想像力が生んだ人工都市、国家の理想の具現として幾度も手が入った都市構造に、時おり街区の乱れが生じているのも、国家につきまとうリアリティが感じられて好ましい。

さて先日、あるドイツ人から、アメリカの都市とドイツの都市と比べて何が違うか?と聞かれて答えに迷った。実は、アメリカの各都市が、個性や歴史を尊重する熱意については、ドイツと変わらない。むしろそれ以上に掘り下げるところがある。確かに、建国当初から皇帝も君臨せず、教会を機軸としたコミュニティスペースが発展したわけではないゆえに、都市に明確な中心核を欠くところはある。ただ、その違いは見た目の話。両国とも、現代のありようは理想主義的な都市マスタープランとすでに乖離して機能している。見た目の都市のイメージから、都市の現実の性格を判断することはあまり意味がない。

それよりも、いまどう使いこなしていることのほうが重要である。両国の勢いのある都市を見比べると、むしろ共通性のほうに目が行く。とりあえず、答えはそれにした。魅力ある都市に宿る勢いとは、多様性とうまく向き合って養分とし、歴史に依存するのではなく、積極的な未来を呼び込もうとする戦略から生まれる。

じつは、私に質問したドイツ人はどこと縁を築くべきかを知ろうとしていたのだ。答えはそれで良かった。対立点より一致点を見出すことは、外交行動としては当然のことだろうから。

佐野吉彦

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