建築から学ぶこと

2019/11/13

No. 696

<共通の近代>を探り当てること

それぞれの国の言説は、そこに独自の歴史があることを強調しようとする。その傾向は近代国家の形成過程において著しく、もちろん日本も同様であった。それは国民の統合や、教育の普及には有効だったと思われる。小国が生き残るためには特に必要だったのだろう。一方で19世紀のアメリカにあった「明白な天命」の概念は、領土拡張を後押しし、また保守主義の土壌を耕すことにも寄与したかもしれない。その旺盛さは20世紀を越えても続いた。じつはどの国であっても、閉じた歴史観は排他的な行動を誘い出すネガティブな面も宿すのである。
ところで、アメリカの歴史学者である、コロンビア大学のキャロル・グラック教授は、近代国家に共通する進化やロジックにきちんと目配りをする人である。その視点から、固有の歴史にこだわることには少なからず警告を発している。どの国も特殊であるということはないのだ。グラックさんの講演<共通の「近代」-世界史と日本>(国際文化会館2019.11.7)には決して悲観的な言いまわしはなく、いまから生まれる前向きなアクションや議論に期待を寄せている。つまり、現在世界各地で起こっている政治的対立は、相互にじっくりと向きあうことで一致点を見出してゆけるのではないか。
もしかすると、ヨーロッパ諸国がリードしようとする、世界の環境政策においても、現在の中国やインド、その先のアフリカの発展の中で起こるエネルギー消費増大を乗り越えるために、国と国、人と人との間にある<共通の近代>をきちんと探り当てる議論をする必要もあるだろう。雑音の中に小さいが正しい声を聞き出すことは意味がある。ある国で生まれた知恵が、普遍的な知恵としてうまく共有されるなら、きっと素晴らしい動きを生むだろう(建築におけるモダニズムはまさにそうだったはずである)。

佐野吉彦

共通のルールと相互の交わり(南アvsカナダ戦2019)

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