建築から学ぶこと

2013/06/19

No. 380

六月の風、大阪の風

昨年7月から1年にわたり、大阪のある団体で「大阪ゆかりの文化人」と名づけた短い文章を執筆してきた。登場する顔ぶれは毎月ひとり。トーマス・ジェームズ・ウォートルス(大阪に滞在時代に「泉布観」を設計、7月生)、佐伯祐三(画家、8月没)、折口信夫(国文学者・詩人、9月没)、松尾芭蕉(俳人、大阪で旧暦10月没)、ヤン・ヨセフ・スワガー(チェコ生まれの建築家。豊中カトリック教会が11月に献堂)、木村蒹葭堂(コレクター、新暦12月生)、吉原治良(美術家、1月生)、山片 蟠桃(学者、旧暦2月没)、大塩平八郎(儒学者、新暦3月生、旧暦3月没)、岡潔(数学者、4月生)、遠藤周作(作家)の母・遠藤郁(音楽教師、5月にカトリックの洗礼)と続いた。取り上げていない緒方洪庵や近松門左衛門などを加えれば実に多士済々。多彩な才能がめぐりあって大阪の文化基盤ができあがっていることがわかる。

6月の最終号は茨木のり子(詩人、1926年6月生、2006年没)を選んだ。医師の娘として大阪・回生病院で生まれ、のちに愛知県から埼玉県に移った茨木は、きりりと重みのある言葉を紡いだ。「自分の感受性くらい」は<ぱさぱさに乾いてゆく心を/ひとのせいにはするな/みずから水やりを怠っておいて>と始まり、「六月」は<どこかに美しい人と人の力はないか/同じ時代をともに生きる/したしさとおかしさとそうして怒りが/鋭い力となって たちあらわれる>と締めくくる。生涯にわたって、時代と社会に対する確かな眼差し・公正な感覚を持ち続けた人ということができる。

ところで、6月の大阪は川端康成や小田実といった作家を生み落とした。そうした、季節の変わり目の6月をデリケートに詠んだのが正岡子規の「6月を綺麗な風の吹くことよ」(明治28年)の句。須磨浦での療養の折の句だが、旧暦の6月(つまり新暦の7月)のイメージがあるという。大阪湾に吹きわたる夏の風を子規は静かに味わっていたのだろうか。

佐野吉彦

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