建築から学ぶこと

2008/11/12

No. 156

半島の磁力

韓国の南端、370万の人口を擁する釜山は、港におけるコンテナの取扱量が世界第5位だという。今や東アジアの交易の結び目だ。加えて、当地開催の釜山国際映画祭は定評あるイヴェントとなり、今秋は建築におけるアジア建築家協議会(ARCASIA)の大会、美術における釜山ビエンナーレが開催された。いまハード以上にソフトパワーがまぶしい都市である。

朝鮮半島の南端にある釜山は、地形的に大陸から海への出口であり、海から大陸への上陸点でもある。双方向にいざないあうベクトルが、海の南の日本とのあいだでさまざまなできごとをもたらし、緊張が伴う関係があった。でもこれからは文化が出会い刺激しあうポイントとなってゆくだろうし、その高まりを期待したい。

それにしても半島という場所は興味深い。ペリー提督が来航し、幕末の日本を揺さぶったのは伊豆半島の南端であったが、ここではその中間部にある小さな真鶴半島に注目してみたい。この緑豊かで頑丈な半島は、魚つき林とも呼ばれるくらい、魚が集まる。また、半島が属する真鶴町では全国に先駆けてまちづくり条例を制定するなど、この地の穏やかな人文的景観を維持するモチベーションが高まったところである。柳澤孝彦さん設計の中川一政美術館もクオリティが高く、真鶴半島ははっきりとした磁力を感じる場所だ。

ここは、慶長11年(1606)ごろ、江戸城の造営のための石の切り出しがおこなわれた土地だという。キリシタン禁教令の直前の、信仰の自由がまだあった時期、任務に当った西国の大名の家臣のなかにいた信者たちがいくつかの礼拝所を設けた。助けあっていたのだろうか。その時代の痕跡をいまも見ることができる。時を経て、この半島に第2次大戦後、真鶴カトリック教会ができた。この地を見出した外国人の発意によるもので、現在の建物はほぼ40年を経過した。こじんまりとして穏やかで、それでいて凛としたたたずまいを持つ。この半島の濃密な物語を受け継ぎつつ、すがすがしい空気が漂っている。

佐野吉彦

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