建築から学ぶこと

2007/07/18

No. 91

人の知恵と経済とがうまく回転すること

兵庫県立コウノトリの郷公園は、コウノトリの保護・増殖を地道に続けながら、試験放鳥を進めている。今年は43年ぶりに野外でのヒナ誕生というエポックがあり、その動向が注目を集めた。現時点では13羽がこの地域をベースにして自由に飛んでいるという。

豊岡では、かつてこの地にあったような「自然と人間が共生する地域社会」が蘇る期待が高まっている。鳥を活かしつづける試みには、安定的に餌が補給されるシステムが必要であり、それには継続性のある農業基盤も、生育環境の適切な再整備も不可欠である。ここには現代のテクノロジーもじゅうぶん活用される。コウノトリにとって住みよい環境とは、人にとっても住みよい環境であるはずであろう。その趣旨をともに学び、知恵を出しあうことではじめて理想的な状況へ向かってゆく試みである。

ここに見るように、地域における環境問題の課題達成には、無理のない経済のサイクルが相伴うべきものである。正しく言えば、各個人が地域という公共財の重要性を認識し、自主的に負担をおこない、また知恵を提供する。市場メカニズムの可能性に期待して、受け身でない地域再生を目指すサイクルである。そのときに、コウノトリは活動の明瞭なシンボルとなるだろう。ちなみに、かけがえのない自然要素は、エコツーリズムのシンボルとしても有効なものである(前回紹介した鹿沢の森の人文的な側面も有効)。

今、国際的レベルで、排出権取引制度を用いたビジネスが広まりつつある。これは地球全体を公共財と捉え、経済的インセンティブを与えながら、温室効果ガスの削減を達成するもの。幾分の生々しさも感じるが、環境行動にはこうしたリアリティが必要だということだ。多くの関係者がネットワークされることによって、環境における提案も行動も、単発的でないものに育ってくる。

佐野吉彦

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