建築から学ぶこと

2011/12/28

No. 308

基準となる年から

戦後、同世代が共有した体験には、60年や70年の安保が思い浮かぶ。それらに伍してわれわれの世代(1954年生)には70年の大阪万博は大きな意味を持つもので、いろいろな高校生が、そこでクライマックスに達していた建築や音楽、美術のまばゆさを目撃している。声高には語らなくても、あきらかにそこで目覚め、活動を開始した人にしばしば出会うことがあるからだ。一方で、その瞬間には鮮やかさに気づかなくても、アップルコンピュータの誕生(1976)、NPO法の成立(1998)なども、その後の流れを転換させた意義深いできごとだった。振り返れば、いろいろな年が歴史の「ランドマーク」の役割を果たしている。

今年は、2011年の東日本大震災のあと、メディアから何度も「この震災で建築はどのように変わるか」と訊かれることがあった。事実、新たな視点は多々生まれてきた。しかし、災害が建築の流れを急転回させただろうと決めつけるのは早計であって、新たな動きとは時間をかけて起こってゆくものではないか。建築と社会の転換は「ランドマーク」を自分にとって重要としてきちんと見詰めた人の手によって発案され、実現に導かれる。当然2011年は重要な出発点になると言えるだろうが、災害と向きあうまちづくりについて言えば、阪神淡路大震災や中越地震のフォローアップはいまようやくかたちとなって整ってきたところである。ものごとの実際の決着へは時間をかけて取り組むことも必要ではないか。

それにしてもこのところ、世間は結論を急ぎたがっていた。特定の相手をターゲットにする論調が勢いを増したこともあったかもしれない。水面下の情報共有が既存の権威のパワーを凌ぐ動きを見せるいま、冷静に見る現実のなかから再構築してゆく覚悟があるかを問うてみたいものだ。私は、東日本大震災の被災地に向きあう建築の学生たちの現下の取り組みをおおいに評価したうえで、そこから10年後にかれらが何を編みあげるかに注目している。

佐野吉彦

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