2014/02/05
No. 411
ステンドグラスの作家である志田政人さんに、カトリック初台教会の薔薇窓をはじめ、これまでいくつかの作品制作をお願いしたことがある。丹念でイマジネーションあふれる仕事ぶりだが、志田さんはある日の講演で、自分の仕事はステンドグラス1200年の歴史と技術基盤の上にある、と語っていた。フランスと日本を往き来しながら、伝承の技法の現代的応用を試み、その空間や地域の文脈をリスペクトした表現を導く志田さん。平行して、歴史を掘り下げる研究を継続しており、技術が生んだ文化と知恵を次の世代に伝えようとする使命感がある。彼の著作「ステンドグラスの絵解き フランス教会に見る光の聖書」(日貿出版)は、分りやすいが学術の香り立つ入門書と言えるだろう。志田さんは、光の質や量、そしてそれぞれの地域に映える色は異なると指摘する。たしかにランドスケープのなかで活きる色彩と、和の暗がりで感じる襖絵の色彩は別の趣である。そのことは知識としては広く理解されているが、実際の社会はデリケートな取り扱いを怠ってきたように思われる。
その課題に、照明デザイナーの長町志穂さんは、仕事を通じて切り込んでみせる。この長町さんの講演も興味深いものがあった。長町さんは光そのものをいつくしみながら、光でやわらかくくるんだ建築や土木構造物を魅力的に変え、光を通じて人の心をやわらかく動かし、人と人とをつながる契機をつくり出している。都市の風景にかかわる仕事が多いが、島根県邑智郡邑南町の田園景観に向きあった仕事[INAKAイルミ@おおなん]には明瞭な切り口と地域文化への敬意があり、さらに地域社会に血を通わせた取り組みだ。ここで挙げたクリエーターたちは、社会をスクラップアンドビルドに頼らずに次の世代に引き継ぐために何を成すべきかを「手わざとして」知っている。賢者たちは、建築では届かない距離を美しくつないでいるようだ。