建築から学ぶこと

2009/05/13

No. 180

ソウルが誇りとするもの

ソウルがたどってきた歴史には重みがある。都市の隅々に見られる、さまざまな局面に生まれた建築はその証人であり、それぞれ印象深いものがある。本来この街は、南山という低山の北の盆地部に位置し、ここに李朝の時代の景福宮や戦前のソウルの中心街区が存在感を示している。

戦後、特に70年代以降に、市域は南山の南に横たわる漢江(ハンガン)を渡河して大きく広がった。現在、ソウルにおける政治や経済活動の拠点は多極化したものとなっており、南山の高みから南望すると、この都市の成長の軌跡を確認することができる。こうしたダイナミズムやムーブメントが、人を惹きつける。この20年の間、ソウルが国境を越えたマグネットに成長した要因は、単なる都市美ではない。日本を含む東アジア諸国の首都とおなじ状況であろう。

そのなかで、ソウルの拠点間をつなぐ「線」には魅力が生まれてきた。漢江に架かる幾本もの橋梁も個性的であり、かつて都市の縁にあった漢江沿いの景観も整えられてきた。これら「線」の整備のなかで、国際的に高い評価を得たものが、本来のソウルの中心を流れていた清渓川(チョンゲチョン)の再生であり、高速道路を撤去した、という戦略性で有名になった。そのいきさつを別にしても、車路と交差しない、今後一層豊かな緑に充たされるであろう、一段低い親水・歩行空間は快適な成果である。これによって、ソウルを眺める視点がより多重化したのである。

さて、南山の南斜面、高級な住宅地の中に構えられたサムスンの美術館 Leeumが目指したものも、意識も成果も国際的レベルにある。ヌーヴェル、ボッタ、クールハースの3者に委ねた設計は上質であるが、収められたコレクションやエデュケーションプログラムの充実ぶりはそれ以上に雄弁である。マーク・ロスコとマシュー・バーニーと奈良美智が、ひとつの館で共存するという懐の大きさと意欲はものすごい。

佐野吉彦

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