建築から学ぶこと

2020/04/15

No. 717

これを機に加速させるべきこと

2015年12月に、岸本忠三・大阪大学名誉教授(免疫学)と本庶佑・京都大学特別教授(分子生物学)が登壇したシンポジウムがあった(第503回で紹介。ちなみに私は運営側での記録担当だった)。それぞれの功績は、長年積み重ねた医学の基礎研究が、創薬につながったことで共通する。ここで岸本教授は、明治以降の日本が大学の基礎研究を重視したことが日本を発展させ、ノーベル賞受賞者を輩出する成果を生んだと述べている。ただし、結果的に役に立つ研究だったというのは、長年取り組んだ結果であって、役に立つことを目指してきたわけではないと付け加えていた。

2018年にノーベル賞を受賞した本庶教授も同じように、特にライフサイエンスでは最初に成果が見通しにくいので、いろいろな可能性を試すことが非常に重要と語った。それゆえに、すぐに結果を求めるのではなく、長期的視点による投資、政府や企業による基礎研究へのバックアップの動きがほしいと加えている。それは岸本教授が<私の履歴書>(2000、日経新聞掲載)のなかで述べている「花形分野に政府が厚く研究資金を配分し始めた結果、少なからぬ研究者が自分の研究を流行に合わせるようになり、いくつかの分野で研究者の層が薄くなりつつある」懸念とも共通している。実は、岸本教授はこのくだりのあとに感染症研究者の不足を例に挙げ、「流行を追わぬことは一人の研究者だけでなく国家にとっても大切ではないか」と結んでいた。これは今日を予言する言葉と言えるだろう。

本庶教授は、4月10日の日経新聞の記事で「物理・化学は論理的で全体の形が確立しているが、生命科学はわからないことが多すぎる未熟な学問だ」とし、基礎研究の重要性に触れている。さらに感染症対策では専門家が平時から行政に政策提言する必要を述べているが、こうした点での終息後の日本のふるまいは非常に重要である。本庶教授は締めくくりに、日本が医療情報共有でITの社会実装が遅れていることを指摘している。おそらく建築分野も、第716回で述べたようなBIMをからめたデジタル改革を進めるなら、いまが好機にちがいない。

佐野吉彦

講演する岸本忠三さん

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