2009/07/01
No. 187
建築家会館が企画するシリーズ本第2弾、大谷幸夫「建築家の原点」が発刊された。鬼頭梓「建築家の自由」に続くものである。多くの作品写真が収められているものの、ひとりの建築家の生きざまにスポットライトを当てることが主眼であり、ロングインタビューによって建築家の拠って立つところを明らかにしている。鬼頭は前川国男、大谷は丹下健三を師とするが、彼らはそこから学んだもの、そこから離れて自らが究めたテーマを率直に、誠実に語っている。ここでは聞き手のリードも巧い。
鬼頭のホームグラウンドは図書館である。理想の図書館をつくろうとする発注者からの直接の依頼に応え、ひとつひとつ手ざわりの異なる回答によって期待に応えてゆく。相互の「志」抜きには考えられない関係であろう。そこに生まれるプロフェッショナリズムというものを、鬼頭は生涯、掘り下げ続けたのだ。「建築家の自由」には、建築家の職能運動にかかわる年表が付されており、前川から鬼頭が受け継いだ信念と行動がどういう意味を持っていたのかを読者に考えさせる。継承することも大事だが、プロフェッショナルはいかにあるべきかを読者は自ら掘り下げて考えよ、とこの著作は伝えようとしているのではないか。
一方、大谷が捉え、語る建築や都市とは部分の真実に支えられている、というものである。それらは、人の活動とともにある、しっかりとした細部に基づくものだという信条は、丹下の構築力のもとから踏み出して大谷が切り開いたものである。戦後日本にいかなるかたちを与えるのか。大谷は社会と人間への深い洞察をふまえ、情緒に流れない、正統的な手法によって、新しい建築空間を生み出してきた人である。付表に見る近代都市計画史は、うまく成熟に向かってゆかなかった日本の現実をも物語っているのだが、ここから先の課題解決は受け継ぐ世代に対してボールが投げられている。きみは、本質の追求を怠っていませんか、という厳しい問いかけとともに。