建築から学ぶこと

2019/05/08

No. 670

『ゲートウェイ施設』は未来をつくる

ニューヨークのブロンクス動物園に行ったのは1988年だった。その折のメモには「4時間滞在」とあり、「見事なのはランドスケープのつくりである」ともある。ここは動物とともにある地域の生態を理解するにふさわしい場所だ、と感じたのである。それは動物園のあるべき姿として今も間違いではないのだが、あれからブロンクス動物園を訪れる機会がない間に社会に多くの認識変化があり、それを受けた改革がこの地で試みられてきたことを「動物園から未来を変える」(川端裕人・本田公夫著、亜紀書房2019)で知った。
おそらく、私が出かけたのは「ランドスケープ・イマ―ジョン」(野生の環境にいるかのようなランドスケープ)設営が成熟した時期だと思われる。その後「環境エンリッチメント」(動物の環境を良くしてかれらの行動を豊かにすること)の概念定着が1990年代に大きく進み、見せ方にも広がりが現れた。学習システムにもさまざまなバリエーションが生まれている。この変化が日本国内の動物園でも起こったのは感じていたが、その先導役をブロンクス動物園が担っていたのである。その後、動物園の取り組みは社会問題と四つに組みながら深度化してゆく。たとえば、動物の本来の住まいであるアフリカでは生態に危機が進んでおり、動物園は、そうした環境問題への関心を目覚めさせ、さらに問題解決のアクションを誘い出す始点となるというものである。
著者によれば、ブロンクス動物園は「動物園はゲートウェイ(門口)である」とする姿勢をはっきり持っている。現代の動物園とは、本物の自然体験をするための、また自然保全を掘り下げて考えるための、きっかけをつくる場所であるべきとのメッセージを発信している。本来、博物館や美術館にも同じような役割があるはずだが、肝心なのは訪れる者が、自ら問題意識を育んで前向きの行動に移れるかどうかである。「ゲートウェイ施設」がうまく人に働きかけ、魂を動かすなら、それらは今後も都市に不可欠な施設であり続けるだろう。

佐野吉彦

高知県立・のいち動物公園にて。キリン、ハシビロコウとその生態

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