建築から学ぶこと

2019/02/13

No. 659

社会のサバイバルをめぐる、賢者の知恵

AIが扱おうとしているデータは、すでに世の中に存在しているものか、すでに人間が思いついたものだ。その検索と処理はうまくAIに委ねるとして、これからの人間が持つべきなのは、未解決の課題や将来起こる課題を扱うことのできる能力である。それは多様な情報を適切に組み合わせ、いかに知的成果にまとめあげるかの能力で、社会は<感知する力>の高い人間をうまく活かすことが必要となる。将来、社会が危機に瀕したときはオルタナティブの発想は有用だと考えるのは鷲田清一さんで、一見マイナーに見える分野を究める人文・社会研究をバックアップすることには意義があると、「サントリー学芸賞選評集」(*1)の冒頭で書いている。一方で、放っておけばAIに代替されかねない人たちの底上げを図る必要もある。「AI vs. 教科書を読めない子供たち」(*2)の著者・新井紀子さんは、後者を危惧するひとりだ。新井さんは、事実をきちんと定義できる能力を育成すべきである、と語っている。
たしかに、言語においても事物においても、あいまいな理解では、知識を構造化し、思考の飛躍を生むための支障となるだろう。では、いかに誰も見たことのない地平にいかに着実に到達するか。たとえば、(恩師でもある)真鍋恒博さんが重視するのは、分類体系づくりを、作業を精確に積み重ねることである。対象の定義を、裏付けを取りながら慎重に行うわけである(*3)。西尾泰和さんの問題意識も同じようなところにあるが、彼は、最初から客観的であろうとするよりも、知識や情報に対する主観的な違和感や身体感覚こそ鍵であるとする(*4)。西尾さんの言葉を借りて言えば、いかにいろいろな立場・職域にある人が<状況に応じて新しい価値を生み出す力>を獲得することができるだろうか。これは社会のサバイバルにおける重要なテーマである。

 

*1 同著はサントリー文化財団・編(2019非売品)。学芸賞は1979年の財団設立から継続。
*2 同著(東洋経済新報社2018)をはじめとする各所での発言に基づく。
*3 近著は「マナベの「標語」100」(彰国社2019)ほか。建築構法計画学。
*4 近著は「エンジニアの知的生産術」(技術評論社2018)ほか。プログラミング。

佐野吉彦

真鍋恒博さんの本。

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