建築から学ぶこと

2019/10/16

No. 692

災害に学ぶこと – 台風19号をめぐって

台風19号は、広範囲に大量の雨を伴うものだった。その前の15号が千葉県内に強風被害をもたらしたのとは異なって、それは全国の50を越える河川で堤防を決壊させるほどの水量であったのだ(*)。河川改修はこれまで無策だったわけではないだろう。過去を教訓として、河川に接続する遊水地や、都心の地下放水路(首都圏外郭放水路)が整備されるなど、災害時に十分機能してきた。すでに都会では過去の集中豪雨で生じた大水害が起こらないようになっている。
それでもなお、多大な被害が生じた今回は、メディアを通じての災害情報伝達がどうなされたかは検証しておきたいものである。交通の計画運休の告知が進んできたのは評価できるが、増水やダムの緊急放流予告は、それにより被害がどこに生じる可能性があるかが適切に伝わったかどうか。長野市ほかを襲った大水害で見るように、広域交通ネットワークや商品流通を阻害するほどに、災害は局所に留まらないものとなったからである。その広がりは狩野川台風(1958)や伊勢湾台風(1959)等の影響とは単純比較できないだろう。災害時に国土交通省と自治体がどのような連携・発信をしていたかは気になるところである。
ところで豪雨の翌日、横浜の日産スタジアムでラグビー・ワールドカップの日本対スコットランド戦が開催された。スタジアムは遊水地を兼ねた新横浜公園内にあるが、スタジアム自体は下部に水を流しこめるつくりであるので試合自体に支障はなさそうだったが、当日までアクセスの心配は大いにあった。良く乗り切ったが、もしこれが開催できなかった場合の影響は大きく、国際的信用さえ失いかねなかった。それも含め、発災前と発災直後の災害マネジメントは社会的責任としてますます重要になる。われわれは、これほど頻発し多様化する災害にどう向き合うかについて、その原因である地球温暖化をどう阻止するかについて、さらに人の尊厳を保つために日常からどう連携するかについて、十分研究しておくべきではないか。

(*10月15日夕刻時点)

佐野吉彦

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