2008/04/30
No. 130
建築をそっくりそのまま内部空間のなかにつくるというのは、とても興味深い手法だ。ひとつのタイプは、原寸大の建築模型をつくるもの。ル・コルビジェ展や清家清展など建築家を扱う展覧会で試みられていたが、これは観客が建築家の目指したものを体感できる格好のテクストとなるものだ(期間限定なのはもったいない)。このタイプのなかに、同じ原寸大の建築模型ではあるが、特定の時代を記述するために活用するものがある。たとえば「大阪市立住まいのミュージアム」は江戸時代の大阪の街並みを室内に丹念に再現したもので、この時代の商品流通や生活文化についての総合的な理解が得られる場所となっている。現在の大阪には良好な伝統的街並みはすでに存在しないので、この常設展示はこの都市の個性を育んだ近世の日常をリアルに知るテクストとなっている。
もうひとつのタイプは建築的作品。平田五郎によるパラフィンワックス(ロウ)による家型の作品などがそれに当たる。また、いくつかの2次元の作品を、作家自らが閉じた空間をつくって配置するという見せ方があり、ここでは作品の相互関係あるいは作品と空間との関係を感じ取ることができる。奈良美智+grafによる「A to Z cafe」や小沢剛の「醤油画博物館」などの仕事は、展示空間のなかにひときわ濃密な磁場を生み出すものだった。これらは新たな建築空間を提案するものではないけれども、作家は建築空間を批評的に問い直しているように感じる。
そのほか、能舞台や演劇の舞台装置などを含め「建築内建築」の取り組みにはさまざまある。それらは現実の建築が受ける経済や法規上の制約からは自由度があるために、明瞭な切り口によって対象に潜む本質を切り出してみせる。建築的なるものは直接的に現実を変える目的を持つのではなく、間接的に影響力を行使する。すなわち、観る者の身体の全体を刺激することによって、かたちの向こうにある豊饒な世界へ誘う扉を開いているのだ。