建築から学ぶこと

2018/12/26

No. 653

ソトマイヨール、メルケルそしてライス

表題の3人は1954年に生まれた。つまり私と同年生まれで、時代の空気を共有してきたことになる。はじめのソニア・ソトマイヨールは米国最高裁判事。オバマ大統領によって任命され、2009年からその地位にある。彼女の自伝「私が愛する世界」(亜紀書房2018)は、幼少期から1992年に最初の判事職に就くまでの物語である。プエルトリコ系の彼女がたどった道のりには多くの困難があったが、日ごろからの努力と準備が自らの能力が花開く場所へと導いた。公正さには筋が通っているが、人を見る眼はとてもあたたかい。しかし何よりも、「よく分かっていて教えてくれようとする人は、どんな人であろうとも、自分よりも優れた師として、恥ずかしがらずに話を聞かなくてはいけない」とあるように、学ぶことにおいて、謙虚であることは素晴らしい。
ドイツの首相を務めるアンゲラ・メルケルは、さらに高い知名度を持つ。彼女の演説を集めた本が「私の信仰―キリスト者として行動する」(新教出版社2018)で、この大政治家の中核にあるキリスト教の信仰を知ることができる。掲載された演説の多くはキリスト教徒の多い会場でおこなわれたもので、「政治は人間の結びつきを促進することはできますが、強制することはできません。私たちは、自分では創り出すことのできないものによって生きています。一体感の基礎となる感覚は、政治以前の空間で形作られます」のくだりでは、宗教心がつくる精神基盤に期待している。実際に、彼女のEUの目標への信頼、移民政策推進を、「人の共生における原則」が裏付けている。
最後に紹介するコンドリーザ・ライスは、8年のブッシュ政権下で大統領補佐官と国務長官を務めたあと、「ライス回顧録」(集英社2013)を書き著した。「(EUやNATOのような)組織や機関に歴史をつくる能力がある」点に着目するなど、彼女は、現状にある制約のなかでいかに効果のある対策を探るのが政治だ、と考える人だ。以上の3人に共通する粘り強さの背骨にあるのは、借り物でない、はっきりとした信念である。私はそういうリーダーに期待したい。

佐野吉彦

1954年生まれには民主主義への信頼がある。

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