2016/02/03
No. 509
造形作家が作品に託すメッセージは、それを観る人との対話によって多様な広がり方をする。小さな展覧会場であっても、力のある作家の仕事が大きな輝きを放つことがあるのだ。建築家の展覧会でも同じような現象は起りうるが、本当は実物を見たほうが確かな手ごたえがあるはず。それなら、建築家は何を目指して実作品をスケールダウンした模型を展覧会に持ちこんでみせるのか。そこにあるねらいを探りつつ、この1月に東京での建築にかかわる展覧会に足を運んだ。「フォスター+パートナーズ展:都市と建築のイノベーション」(森美術館)・「建築家フランク・ゲーリー展”I have an idea”」(21_21 DESIGN SIGHT)・日本の近代建築の父 アントニン・レーモンドを知っていますか」(教文館ビル9階)・「岸和郎:京都に還る_home away from home」(ギャラリー間)の4つである。
この中でレーモンドだけが故人。会場である教文館の130周年を記念した展覧会では、日本における教会建築作品がクローズアップされる。日本の素材を活用しながら、レーモンドはあくまでモダニストの側にいる。キリスト教団体である教文館のこのビルも彼の仕事であり、会場を訪れること自体が作品体験だという意図がこめられている。一方、やはりモダニストである岸さんは、京都を看板にきちんと掲げつつも展覧会には土地の臭いを漂わせない。透明で心地よい演出だが、実は手の込んだつくりである。ここに岸さんの戦略があるようだ。
フォスター展は巨大設計組織の技術的集積を誇る。建築の多様な切り口を見せながら、どのようにでもお楽しみください、とのサービス精神を感じる。それは異なる世代が往来する六本木ヒルズにフィットしたアピールである。ゲーリー展の会場構成は田根剛さんによるもので、ゲーリー印の自在な造型がアミューズメントパークのように散在していた。この会場では、ゲーリーの技術サポートをしてきたゲーリー・テクノロジーズ社が取り組む建築生産プロセス改革が放映されている。同社はゲーリーとは別にもビジネス行動をしており、ここで建築家に向けて大いにビジネス・アピールを行なっている。そういったいろいろな仕掛けを感じ取ることが、建築家の展覧会の楽しみなのである。