建築から学ぶこと

2014/03/12

No. 416

人の魂、あるいは人間くささがもたらすもの

ルイス・カーンには大学と設計事務所での弟子とがいる。教壇を介した関係と、身近な距離で協働する関係とは異なるところがある、と工藤国雄さんは言っていた。身近なほうの弟子からみると、公私にわたる苦悩の背景が良く見えるらしい。生々しさもあるが、人の総体を通じて、造型も建築家としての軌跡も理解することになる。決定的に影響を受ける関係とは、謦咳に触れるというより、このような、人間としての強烈な匂いに眩暈がすることによって生まれるのであろう。現代の大学や大学院における専門教育も、濃密に過ごす時間にこそ価値があるように思われる。

最近、仲野徹さん(大阪大学大学院教授)著の「生命科学者の伝記を読む」(学研メディカル秀潤社)を読んだ。ここにいくつか取り上げられた生命科学者の功績は、そのドラマティックな人生抜きでは考えられない。それぞれにある、抜き差しならぬ人間関係は行く手を阻んだり、反発力が活力に転換したりしている。出会うことの幸運も、もちろんある。どうやら理系における直球勝負の人間関係には驚くべき成果を引き出す可能性があるのだ。

そんなことをあらためて考えていたおりに、川崎駅前に用事があったので、西口にあるラゾーナ川崎の「東芝未来科学館」を覗いてみた。最新の技術以上に目を引くのが同社の歩みの展示で、創業者である田中久重(1790-1881)と藤岡市助(1857-1918)のエンジニア魂にはワクワクするものを感じた。からくり技術から業を起こした田中は大いに目覚め、社会のために有用な技術とは何かを追究し続けた。一方の藤岡は白熱電球はじめ多くの日本初の電気製品を開発したパイオニアだった。彼らがそれぞれ起こした企業は芝浦製作所と東京電気となり、それらはやがて合流する。そのような経緯で、東芝は今もすこぶる魅力的な2本の美脚を備えた生き物になっている。

佐野吉彦

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