建築から学ぶこと

2007/09/26

No. 100

建築を変えるもの

「現代ではいかなる文学、いかなる文化といえども、それ自体で自己完結的に存在することはできない」。そう書いているのは沼野充義氏(文学者、主としてロシア文学・ポーランド文学)だ。実は文学や文化は安定した基盤の上に築かれてきたのではない。流動性の高い状況においてこそ、魅力的な成果が生まれている。そうなると時代はますます興味深い方向に向かってゆくように思われる。建築をめぐる状況についても、予想のつかない展開が待っているのだろうか。

沼野氏は続けて、「現代世界の様々な文学、文化は一見したところ絶望的な多様性のうちに存在しているものの、その多様性は多様性として受け止めながら、異なるものどうしを並べて論ずることを可能にする一つの<土俵>というものがある」と記している。それゆえに「人間と人間の交流も翻訳も可能になる」のだ。これはたとえば2007年という時代をベースにして起こることは全く同質のもの、という意味ではない。現代は、異なるものどうしであっても、いや異なるものどうしであるからこそ、相互を理解しあえる術を身につけている時代であるということだ。

それは楽観的過ぎるだろう、憎しみあいも戦争も消えていないのではないか?という反論もあるかもしれない。が、時代の大きな流れを見るとき、個人はもはや戸籍の属する国家を経由して物事を選択していないのではないか。われわれが建築を設計するときに建築基準法に制約を受けることがあっても、また地域のために真摯な配慮をすることがあっても、その都度国家を意識しているわけではない。それよりも、建築をつくることによって、国内であっても国外であっても、異なる価値観を持つどうしがどう結びつくことができるか。その点に私は豊かな可能性を感じる。おそらく、建築は自己完結的に進化したり、変化したりはしない。誰と誰がどう結びつくかによって、建築は予想を越えた変貌を遂げるだろう。

佐野吉彦

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