建築から学ぶこと

2012/05/30

No. 327

その人の確かな力

ひょんなことからひとりの魅力的なJapanese-Americanのリタイアを記念する昼食会に出席することになった。会場はロサンゼルスのボナベンチュアホテルで、参加者は700を数える規模だった。その主役・ビル・ワタナベさんは、当市のリトル・トーキョーを活動の基盤として、Little Tokyo Service Centerの専務理事を長く務めたほか、アジア系住民の生活支援など広汎な社会奉仕活動と街の活性化に邁進してきた人である。次々演壇に登るスピーカーたちは、そのあたたかい人柄を称え、その実行力に敬意を表していた。

会場で配布された自伝パンフ「Miracles in Little Tokyo」にも、彼が社会奉仕を天命と感じていたことが記されている。それゆえ、ものごとが順調に進まぬ時も神を恨むようなことはせず、ひたすら時のしるしが顕れるのを待ち望んだ。たとえば歴史的建築物の存続においては、それが社会に必要な施設として活かされる局面まで、辛抱強く建築を維持する努力を優先し、実現に向けて奔走した。結果的にはリトル・トーキョーはたくましく、いきいきとした魅力とともに生き延びることができたが、それを支えたのがワタナベさんのような懐の深い人材だった。

彼は、試練も幸運も神が与えたものと感じている。パンフの標題にある「in」とは、人それぞれ、地域社会や都市に潜んでいる<萌芽/きざし>ときちんと出会い、そこで成果を実らせるべきだということを語ろうとしたのかもしれない。会場には驚くほど多くのJapaneseがいたが、私は、海外でこれほどまとまった数のJapaneseに会ったのは初めてである。彼/彼女らは、公正さに基づくアメリカのコミュニティ形成の原則に立脚するだけでなく、日本文化の良質な部分も受け継いでいると感じた。それもこれもワタナベさんに由来するところが大きいに違いない。個人の徳は、どの場所にあっても確かな力を持つのだ。

佐野吉彦

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