建築から学ぶこと

2011/11/23

No. 303

かれらの足あと

昭和の初めの日本に、4人のチェコ人建築家がそれぞれ縁あって根を下ろした。そして、彼らはその時代の日本が求めていた機能をかたちに表すことになる。ドイツ人建築家デラランデが招いたヤン・レツル(1880-1925)の作品はほとんどが失われたものの、皮肉にも広島県物産陳列館が原爆ドームとして姿を留めた。ライトのスタッフとして帝国ホテルを担当したアントニン・レイモンド(アントニーン・ライマン、1888-1976)は数多くの名作だけでなく、すぐれた後進を育てた重要な存在である。そのレイモンドの事務所に在籍したベドジヒ・フォイエルシュタイン(1892-1936)とヤン・ヨゼフ・シュヴァグル(スワガー、1885-1969)もまた、誠実に日本の社会と文化に向きあった作品を残している。

そうした足跡がチェコ国営テレビのドキュメンタリー番組「Sumne stopy(麗しき足跡)」で6回にわたって取り上げられたことで、本国でも広く知られるようになった。これは、建築家であり俳優であるダヴィット・ヴァーヴラ氏が4人の仕事を訪ね歩きながら、日本文化をていねいに掘り下げてみせる質の高い番組となっている。良質なユーモアも好感が持てるものだ。先日、チェコセンター東京(チェコ大使館内)でその映写会が催されたおり、日本の近代建築を良く識るホリー・ペトル所長が実現に大いに寄与したことを知った。彼のパーソナリティによって、チェコと日本は綺麗で鮮やかな糸でつながれたと思う。とても価値のある外交だ。

ディレクターであるラドヴァン・リプス氏は、ここで歴史を少なからずRewriteする意欲を抱いていた。異なる文化の間に起こる交流とは一時的・限定的なものではないのだ、というメッセージを番組は伝えようとしている。印象派への浮世絵の影響は知られているし、日系移民がアメリカ各地の日本庭園を造営した功績も知られている。かたちが海を渡るとき、魂も海を越える。そして想像を越えた流れを生み出すのである。

佐野吉彦

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。